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たまには本のご紹介

たまには本のご紹介_c0057845_23471090.jpg最近は忙しさにかまけてすっかりご無沙汰になってしまいましたが、一時はミステリを多少読んでたこともありました。
で、ミステリのご紹介でも、と思いますが、読んだ本をフツーに紹介しても芸がないので、ひとつテーマを決めて。
お題は「名作を下敷きにした作品」。
第1回はこちら。


「殺しの双曲線」西村京太郎

 西村京太郎というとトラベル推理、と思う人が大半でしょうが、トラベル推理物を書き始める以前には実に多彩なミステリ作品を発表しています。中でも傑作のひとつに数えられるのが本作。
 この作品はアガサ・クリスティの古典的名作「そして誰もいなくなった」を下敷きとしています。ある人物からの招待状で集まった男女が閉ざされた空間で一人、また一人殺されてゆく、という展開は「そして誰も~」を踏襲しています。
しかし、下敷きにしているのはこれだけ、と言えます。むしろこの作品の最大の特色となるのは、作者が作品の冒頭で宣言している「双子トリック」。エラリィ・クイーンよろしく読者への挑戦ですが、「双子」というよりむしろ「TWIN」といったほうがしっくりくるのでは。
東京での双子による連続強盗事件と、東北の雪の山荘での「そして誰も~」のような連続殺人が並行して描かれていく前半部分。
後半に入るとふたつの事件がつながって、そして「双子」の本当の意味が明らかに。そこから先は一転して怒涛の展開。
もうここに至ると、読者の頭からは「そして誰も~」はどっかに行ってしまっています(笑)
犯行の動機や結末に社会派的な要素が取り込まれていて、これは「天使の傷痕」等、同じ時期の作品にも見られる特徴です。
また、難解なトリック、巧みに張られた伏線、そして意外な真相等、本格ミステリとしての要素を備えていて読み応えがあります。
難を言えばラストの解決法がちょっと拍子抜けかな?というところ。でも、裏を返せば、そうでもしない限りこの事件は解決できないよ、という作者の並々ならぬ自信のあらわれともとれます。

西村氏の読みやすい文体で本格ミステリの醍醐味を味わえる本作は、ミステリを読んだことがない方にもお薦めです。
もちろんその前にクリスティの「そして誰もいなくなった」を読むことをお薦めしますが、読まなくても充分楽しめる作品だと思います。
by masafuji1970 | 2005-04-12 23:17 |


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